それまで

夏の読書感想文。小説の感想というかこの小説を書いたシゲへの感想になりそう。
いち新規がうだうだと知ったかぶってるので各方面に申し訳ないです。ジャンピング土下座。
『ピンクとグレー』

ピンクとグレー


読みにくいか読みやすいかといえば少し言い回しがくどくてすらすらとは行かない。
ただ、小説の場合読みやすさは善し悪しに関わらないだろうし、そういうのがやりたかったのかなと思うといいんじゃないかな~。(と、某読書記録サイトの感想一覧を見て思ったw)
いくつかやられた!ってところがあったんだけどまず最初は「石川」が女の子だったことかなw
小ワザかけてくるなーと。
最初の子供時代のシーンでは特別な描写がないし男の子だと思ってたから。
初めに石川への説明を省いた分、話に入るのが大変だった感はあるけど、なるほどこういう仕掛けだったのかとおもしろい。あれみたい、ジェンダーの問題でよく出てくる、交通事故と外科医の話*1。この話最近どこかで久しぶりに聞いたきがするんだけどどこだろう。社会学の教科書かな。それは置いといて、そういったトリックが仕込まれてるとは露知らず、してやられました。

小説は一人称だったとしてもそれはあくまで登場人物、主人公であって著者ではない、とわかってるけど、これ書いてるのがシゲだと思うとどうしても主人公に存在を重ねてしまってた。
実際、引越しのことや子供時代のこと、高校時代のことは経験が元になってるんだろうしね。
だからなのか、りばちゃんがごっちになって映画を撮り始めたとき、この人、自分、殺そうとしてるよ...ってハッとして泣きそうになった。これもやられたなーとおもった部分の一つでもある。

あとはシゲのそれまで、の集積なんだろうなと思った。
例えば前述の子供時代、高校時代、大学時代。リアルな渋谷描写。
それから、透明になってしまったメダカの話。
色について、モノの色っていうのはそのものが嫌って反射した光の色をうつしてるんだよっていう説明の仕方をする一連のセリフは作中ではサリーのものなんだけど、何年か前のM誌の連載、「青い独り言」を読んでたらしげが同じことを言ってた。ここで、登場人物は全て自分の分身という趣旨の言葉(これを言ったのは閃光のときなのかな?)に納得。
全てを吸収して透明になってしまったメダカと、ごっちを吸収して消えていくりばちゃんはリンクしてるのかなって思うので、この頃(多分08年以前)から考えたことを昇華させてできたのがこの物語かなと。
細かいけど、しげが以前の雑誌で自分の作ったチャンプルーのポイントは麺つゆのみで味付けしてるところ!って言ってるのにりばちゃんは母が作った炒め物の味を「麺つゆでさぼったであろう味付け」と評してるところもおもしろかった。
こんなふうに、それまでのシゲが散りばめられてるのが(わたしの知りうる「それまで」はリアルタイム追ってましたじゃなくて付け焼刃知識のくせに)読んでいてドキドキするポイントでもありました。

蘭とごっちのおねえちゃんの話と主旨をもっともっとわかりやすくつなげてもいい(伏線がもったいない)と感じたのは、『ファレノプシス』が綺麗すぎるが故なんだけど、長さにも決まりがあるし難しかったんだろうなあ。ごっちと姉の繋がりがあって、姉を吸収したごっちをりばちゃんが吸収するってことなのかな。ごっちの姉の死があとになってこんなに大きな位置を占めてくるをは思わなかった。


最後に。
もう一つ、ピングレ読んだ直後に昔の雑誌漁ってたらとんでもない「青い独り言」が出てきた話。
タイトルはそのまま「灰-Gray-」。
話は何故グレーがいけないのか(白黒はっきりさせなければいけないのか)という昔あったセリフから、グレーへ意識が向いたというところから始まってる。
この頃のシゲによれば、ピンクは嫌いな色だったらしい。というのも「自分の好きな色である赤を薄めてるから。」グレーも同様に、「自分の好きな色である黒を薄めてる」存在としていて見ていたそうな。それが、グレーは黒に白を足して出来た色だと気づいたとき好きになれたとか。ピンクも同様に。
・・・だから「白」木なのかも。だからアルビノのメダカなのかも。
想像は膨らむわけです。

そしてグレーは黒も白も知ってるモノクロ界の無敵色だともいう。

さらに、冒頭のどうしてグレーがあってはいけないのかという疑問に対して、グレーは燃え尽きたあとの抜け殻の色、人がいつかそうなる色だから、人は自然に避けたがるのかもしれないという仮説を唱え、とはいえグレーは僕にとっては夢だと書く。
冒頭で理想の男を白パターンと黒パターンにわけてるんだけど、その両方が混じった灰色って最強だし夢だと。
最後に白を女性、黒を男性とするなら白と黒が互いに愛し合い混ざり合ったグレーは愛じゃないかと。『グレーは灰色ではなく、愛色なのさ』と。『互いに歩み寄り相手と自分を同じように感じられたとき、黒と白がちょうど半分ずつ混ざり合ったグレーになる』と。

なるほどなあ...シゲちゃんめっちゃロマンチストじゃないか!!!!!
しかもなんだか、一気にタイトルの意味まで分かってしまったような気分。
ここまで読むと難しかったものも一気にスッキリとした。やっぱり同化がテーマなのかな。とすればこの小説のジャンルはこれもう純灰*2小説だななんてことを思いました。

*1:『ある大学病院に有能な外科医がいました。 その外科医に手術をしてもらおうと全国から患者が集まってくるほどの知名度です。 ある日、その外科医のもとに交通事故にあったという親子が運ばれてきました。 親子を見て外科医はびっくりしました。 なぜならば、交通事故にあったのは自分の子供とその子の父親だったからです。』ていう話のトリック

*2:ちょうど半分ずつ混ざり合った純愛の色は「純灰」かもしれないとこのコラムで言ってた